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■天使の日■Angelsyndrome■
ネルルートクリア推奨。
ネルルートからしばらく後のお話。


「ねぇ、ゼルク! 今日は天使の日なんだって!」
 突然、ネルが俺に教えてくれる。
「天使の日?」
「そう、俺達の日だよ!」
 なんだか嬉しそうで、俺もつられて嬉しくなった。
「俺達の日か!」
「うんうん」
「なにか、してもらえるのかな」
「うーん。どうだろう。ほとんど天使だし。悪魔が祝ってくれるのかな」
「それはちょっと恐いな」
 この学園の半数は悪魔だけれど、俺はまだそんなに悪魔と知り合っていない。
「じゃあ天使同士でお祝いする?」
「それもいいけど、どう祝えばいいんだろうな」
 なにかを祝うことも祝われることもいままでなかった。
 いったいどうすればいいのかわからない。
「ネル、解かる?」
「うーん。おめでとうって言えばいいのかな」
「……おめでとう?」
「おめでとう……?」
 なんだかいまいちしっくりこない。
「そういえばネル、誰に天使の日だって聞いたんだ?」
「サリエルだよ。昨日、中庭で会ったんだ」
「じゃあサリエルに聞いてみよう。なにすればいいのかって」
「そうだね」
 サリエルもアイムも、だいぶ前に上級クラスへとあがってしまった。
 それでもたまに校舎内で見かけては、声をかけてくれることもある。
「そういえば俺、最近サリエル見てないな」
「上級クラスに行けば、きっといるよ」

 俺達はさっそく、白学上級クラスへと足を運ぶ。
 けれどそこにサリエルの姿はない。
「……もう帰ったのかな」
「アイムがいる! アイムに聞いてみよう」
 教室内に入り込むネルの後ろをついていく。
「アイム、サリエル知らない?」
「サリエル? サリエルならもうここにはいないけど」
「え……」
 俺はネルと顔を見合わせる。
 急に不安が押し寄せて来た。
「ネル、昨日会ったんじゃないの?」
「うん、会ったよ。なにも言わずにどっか行っちゃうなんて……」
 2人で不安になっていると、アイムが小さくため息を吐いた。
「違う。このクラスにいないってだけ。別にこの学園にはまだいるよ」
「なんだ、そういうこと……」
 納得しかけるが、上級クラスの上はない。
「どこ行ったんだろ。サリエル」
「白学の上級課程を終えたってんなら、次は黒学でしょ」
 黒学。
 悪魔が学ぶ学問だ。
 黒学の校舎には悪魔がたくさんいると聞く。
 悪魔であるアイムの前で、黒学の悪魔が怖いなんて言えるはずがない。
「情報ありがとう!」
 ネルは、笑顔でアイムに応える。
「ま、黒学行くなら気をつけなよ」
 そうアイムも俺達を見送ってくれた。

 俺とネルは、ひとまず白学の校舎を出る。
「……ネル、どうする?」
「うん……。俺達、翼さえ出さなければ悪魔に見えないこともない、よね?」
 アイムが上級クラスに進級して以来、ネルは髪色を元に戻していた。
 真っ白で綺麗な髪。
 俺の髪も白色。
 白い髪の悪魔はあまりいないらしい。
「天使に見えるかもしれないけど。大丈夫だよ。俺が守る、から」
 なにを思ったのか、俺はネルの前で強がってみせる。
「……ふふ。ありがとう!」
 ネルは俺の左手をぎゅっと握ってくれた。
 守る自信なんて全然なかったけれど、ネルに手を繋がれると不安が消えて行く。
 俺達は心を落ち着かせ、黒学の校舎へと乗り込んだ。


 知らない人に声をかけるのはやめにして、校舎内を歩きサリエルを捜す。
 そのつもりでいたのに、あまりにも不信に見えたのか、うっかり声をかけられてしまう。
「なになにぃ、見かけない子だねぇ。こんなとこ来て、どうしたの?」
 明るい髪色。
 だけれどところどころ暗くて、天使なのか悪魔なのかよくわからない。
 しかも前髪で目が隠れていてなんだか怪しい。
「友達を捜しに来たんだ」
 ネルは警戒心がないのか、偏見を持たないのか、怪しい男にそう答える。
「友達? それって天使?」
 なんとなく、怪しい男の声色が変わったように聞こえた。
 俺はネルの手を、ぎゅっと握り直す。
 これ以上、ネルに頼るわけにはいかない。
「天使だよ」
 今度は俺が、ネルに変わって答える。
「その天使、こっちにいるの?」
「たぶん……」
「その天使の友達?」
「うん」
「……まあいっかぁ」
 そう言うと、その生徒は教室に入って行く。
「……え、どういうこと?」
「ゼルク、後追いかけてみる?」
 怪しい男が入った教室のドアプレートに目を向ける。
 そこには上級の文字が書かれていた。
「ネル……ここ上級クラスみたいだぞ。さすがに上級クラスにはいないんじゃ……」
「そ、そうだね。下級クラスの教室、捜してみようか」
 背を向けたそのときだった。
「……なにしてんだ、お前ら」
 背後で教室のドアが開く。
「サ……サリエルー!」
 そこにいたのはサリエルだった。
 俺達は2人サリエルに駆け寄る。
「サリエルのバカ! 捜したんだからね!」
「おい、なんで俺がバカになるんだ」
「お前がいつのまにか白学上級からいなくなってるからだろ!」
 ネルとサリエルを叩いていると、ふと視線を感じた。
 目を向けると、さっきの怪しい男。
「本当にサリエルのお友達だったんだねぇ」
「もしかして、サリエルのこと呼んでくれたのか?」
「そうだよ。ここにいる天使って、限られてるから」
 怪しい男だと思っていたけれど、どうやら協力してくれていたようだ。
「バラキエル、こいつら虐めんなよ」
「うーん、どうしよっかなぁ」
 やっぱり怪しい男かもしれない。
「ひとまず、場所変えるか」
 俺達はサリエルと一緒に、黒学の校舎を出ることにした。
 こっそりサリエルの服を掴ませて貰う。
 反対側ではネルも、サリエルの服を掴んでいた。
 顔を見合わせ、つい笑ってしまう。
「お前ら、恐いならわざわざ来るなよな」
「こ、恐くねぇし」
「ちょっと掴んでた方が、歩きやすいだけだもん」
「そうそう、それ!」
「はいはい」
 サリエルは、俺の頭とネルの頭をポンポンと叩く。
 なんだか子ども扱いされたみたいだけれど、少し心が落ち着いた。

「それで、なんの用だ?」
 中庭に辿り着き、サリエルが切り出す。
「今日、天使の日だってネルがサリエルに聞いたって」
「そうだな」
「それでね。ゼルクとどうお祝いするんだろうって話してたんだ」
「別に、祝うってことでもねぇけど」
「違うの?」
 サリエルは、うーんと首を傾げ考え込む。
「ま、せっかく会いに来てくれたみてぇだし? なにかお祝いでもするか」
「サリエルが俺達を祝ってくれるってこと?」
「やったね、ゼルク!」
「……一応、俺も天使なんだけどな?」
「黒学行ってる人は、祝う係ってことで」
「おいゼルク。変なルール作ってんじゃねぇぞ」
 キラリと光るナイフが視界に入る。
「危ないだろ!」
「はいはい。どうせ刺さってもすぐ治せるだろ」
「そういう問題じゃねぇし」
 結局、サリエルは刺さないでいてくれた。
 こういうやりとりもなんだか懐かしい。
「……なんでサリエルは、黒学に行ったんだ?」
「ん……。白学学び終えたから」
「そんなに、勉強熱心だったのかよ」
「まあな」
 俺とネルは顔を見合わせる。
 たぶん、思っていることは同じだ。
 今、俺達は白学中級クラス。
 がんばって進級すれば、またアイムやサリエルと同じクラスになれると思っていた。
 それなのにサリエルはもうそこにはいない。
「……しけた顔してんじゃねぇよ。別にいつだって会おうと思えば会える」
「本当?」
「本当」
「黒学の校舎行かなきゃなんないんだろ」
「寮の部屋、来てもいいから」
「上級になって、部屋わかんなくなったし」
 サリエルは、上級に進級したと同時に、部屋も変わってしまった。
 だから俺とネルは、今日もわざわざ校舎内を捜す羽目になったのだ。
「じゃあいまから行くぞ。そこで天使の日、祝ってやるから」
「それ、クーシーも連れてっていい? ……天使じゃない、けど」
「わかった。お前らの部屋寄ってから行くか」
「やったー。よかったね、ゼルク! クーシーも喜ぶね!」
「うん!」

 結局、天使の日がなんなのかわからないままだけれど。
 サリエルのことだから、人間界のお菓子を出してくれるかもしれない。
 俺とネルは期待に胸を膨らませ、サリエルと一緒に寮へと向かうのだった。