■Hybrid症候群×Angelsyndrome■イースター■ドリア■ ※たまごドリア(2017/10/12up)続きネタです。 いつもならお昼寝をしている時間。 今日は、天気もいいし、出掛けることにした。 森の中を散歩していると、突然、目の前にピンク色の丸いものが現れる。 「クゥ……!」 見覚えがある。 これは魔物の卵だ。 ニョロニョロした変わった魔物の卵。 確か魔物はボティスとかいう名前だった。 周りを見渡してみるけれど、ボティスの姿はない。 こんな所に卵をおいておいたら、きっと誰かが食べてしまう。 ボティスのマスター……アプサラスに届けに行こう。 それがいい。 僕はその卵を抱えて空を飛んだ。 「クゥ……」 卵は少し重くて、ちょっと疲れてしまう。 中庭で少し休憩していると、赤い髪の生徒が近づいて来た。 夜によく見かける生徒。 名前は確かサリエルだ。 リオクは授業に出ている時間だけど、サリエルは授業に出なくていいのかな。 とりあえず、この人に卵を預ければ、届けてくれるかもしれない。 「クゥ!」 僕はもう一度卵を持って、サリエルの前に出る。 「なんだ、ドリアか。なに持ってんだ?」 サリエルが出してくれた手の上に卵を置く。 「クゥ、クー!」 「アプサラスに渡せって?」 「クゥ!」 「……渡してもいいけど、こいつはボティスの卵じゃねぇ」 「クゥ……!?」 「色は似てるけど、だいぶ小さいだろ」 言われてみれば確かに、前に拾った卵よりだいぶ小さい。 どうやら知らない魔物の卵を持って来てしまったようだ。 「クゥ……」 「別に、魔物の卵なんてゴロゴロしてんだろ。わざわざ持ち主探す必要なんてねぇよ」 「クゥ?」 でも、置いておいたら食べられてしまうかもしれない。 「……お前もアプサラスみたいに部屋に持ち帰ったらどうだ」 僕が育てる……ということだろうか。 「クゥ……」 「落とさねぇよう大事にしろよ」 「クゥ!」 少し迷ったけれど、僕はその卵を持ち帰ることにした。 割れないように、タオルに包んでおこう。 リオクが間違って踏んだり、寝転がったりしたら大変だ。 ひとまず机の上に置いておく。 その後しばらくして、授業を終えたリオクがラウムを連れてやって来た。 「ただいま、ドリア!」 「クゥー! クゥ!」 「こんにちは」 僕は、ラウムとリオクの服を交互に咥えて引っ張る。 「なんだ、なにか見せたいもんでもあるのか?」 机の傍まで2人を連れて来た後、タオルをそっと開いた。 「クゥ」 「ドリア! お前……卵産めたのか!」 びっくりした様子でリオクが大きな声をあげる。 「たぶん違うと思うよ。こないだリオク、いなかったけど、前にも卵拾って来てたから……」 「クゥ……!」 ラウムが僕の代わりに説明してくれる。 「そういうことか。男でも卵産めるのかと思ったぜ」 「俺は前、ドリアが女の子なのかと一瞬思ったけど」 「それはないだろ、ラウム。どう見てもドリアは男だ」 「男が卵産む方がないと思うけど……」 ラウムはあまり魔物を見ていないから、男女の区別がうまくつかないのかもしれない。 「クゥ、クゥ!」 「ドリア、その卵、かうことにしたの?」 「クゥ!」 僕はラウムを見て頷く。 「待てよ、ドリア。そいつの持ち主が困ってるかもしれねぇだろ」 「クゥ……」 サリエルは持ち主を探す必要はないって言っていたけど、リオクは優しいから心配なのかもしれない。 やっぱり、持ち主を探した方がいいのかな。 そんなことを思いながら、卵を持ち上げたそのとき。 「クゥッ!?」 卵にヒビが入ってしまう。 「クゥー! クゥー!」 殻に爪を立ててしまったのかもしれない。 僕の卵じゃないのに。 きっと僕の爪は凶暴だから、壊れてしまったんだ。 「な、泣くな、ドリア。お前のせいじゃない」 リオクは卵を持った僕を抱き抱えてくれる。 「クゥ……」 もう治らないのかな。 「ドリア……ゼルクに相談してみる?」 「ゼルクって誰だ?」 リオクは、ゼルクと会ったことがない。 だけど、ゼルクもいい天使だ。 「クゥ……」 「こないだドリアが卵を拾ったとき、一緒に持ち主を探してくれた天使だよ。学園のこと、少し案内してくれたこともある」 「そいつに相談したら、なにかわかるのか?」 「わかるかどうかはわからないけど……」 「クゥ、クゥ!」 もしかしたらわかるかもしれない。 僕の羽を見て、半分仲間だって言ってくれた。 「ま、ドリアが会いたいってんならいいぜ! 行こう!」 「クゥ!」 リオクは快く受け入れてくれる。 僕はヒビの入った卵をタオルに包むと、白学中級クラスへと向かった。 「やべ……やっぱ中級クラスって緊張するな」 いつもは羽を出しているリオクも、いまだけは隠している。 僕も念のためにと、リオクに大きな鞄に入れられていた。 少しだけ顔を出して教室の中を覗き込むと、ゼルクと一緒にサリエルもいる。 「あの子がゼルクだよ」 「お、あいつか。せ、先輩だからな。敬語にした方がいいのか?」 「リオクってそういうこと気にするんだね。たぶんゼルクはそういうの気にしないと思う」 「そうか」 「それに、リオクの方が先輩だと思うし……」 ぼそぼそリオクとラウムが話していると、ゼルクの方がこっちに気付いて来てくれた。 「ラウム! どうしたんだ? 友達か?」 「うん。リオクって言うんだけど……」 リオクは、相手が中級クラスの天使だからか、少し緊張しているみたい。 「ラウムから、お前……えっと、ゼルクならいろいろわかるかもしれないって聞いて」 「わかるかもしれないって……なんのこと? 俺、そんななんでもわかるやつじゃないけど」 「クゥ……」 僕が鞄からもう少し顔を覗かせると、ばっちりゼルクと目が合う。 「あ! ドリアだ!」 「クゥ!} 「なんだ、ドリアの友達か?」 「お、おう。そんなところだな。使い魔っていうか……。あ、ラウム、天使って使い魔持ってるヤツあんまいないんだったか?」 「俺よりリオクの方がそういうことは知ってるんじゃ……」 リオクは内緒話が下手みたい。 全部ゼルクに聞かれてしまう。 「大丈夫だよ。中級クラスには使い魔がいる天使も結構いるみたいだし。俺も、あんまり知らなかったけどな」 リオクがほっと胸をなでおろしていると、ゼルクの後ろからサリエルもやってきた。 「なんだ、やっぱり持ち主でも探しに来たのか?」 「サリエル! なんだよ、持ち主って」 「昼に中庭でドリアが卵持ってるとこ見かけたんだよ」 「クゥ……」 残念ながら、持ち主を探しに来たわけじゃない。 探した方がいいかもしれないとは思ったけど。 もう卵は、ひび割れてしまった。 「実は……その、卵が割れちゃって」 ラウムがゼルクたちにそう伝えてくれる。 「クゥ……クゥ……」 「な、泣くな、ドリア。お前のせいじゃないって言ってるだろ」 タオルに包まれた卵を持った僕の体を、リオクが抱え上げる。 「……見せてみろ」 サリエルが差し出した手の上に、僕はそっとタオルごと卵を置いた。 「サリエル、治せないのかよ」 「俺をなんでも屋にするな」 「なんでも屋だろ」 サリエルはふぅっと大きくため息をつくと、僕の頭をそっと撫でてくれる。 「安心しろ。お前のせいじゃない」 「クゥ……」 「じゃあ、治せるんだな」 「いや、治す気はねぇ。ついてこい」 サリエルはそう言うと、卵を持ったまま、廊下に向かう。 「待てよ、サリエル! それ、ドリアの卵だからな」 僕のじゃないけど、ゼルクはサリエルの背中に声をかける。 「ラウム、あいつはなんなんだ? ついてこいって言ったよな?」 「う、うん。こないだはおいしい食べ物くれた。リオクが探そうって言ってた食べ物だよ」 「ドリアが半分くれたやつだな! あれをくれたのがあいつだったのか」 リオクが嬉しそうに笑う。 さっきまでは少し警戒していたみたいだけど、どうもサリエルに心を開いたみたいだ。 「早く来いって。間に合わねぇぞ」 少し先を歩いていたサリエルが、こっちを振り返る。 「クゥ?」 間に合わない。 どういうことだろう。 ひとまず、僕とリオクとラウムとゼルクは、サリエルの後をついて行くことにした。 連れて来られたのは、寮の一室。 「なんだ、サリエルの部屋じゃん」 ゼルクはそう言って、ベッドに座り込む。 「ドリア、ちょっと卵持ってろ」 そうサリエルから卵を差し出されるけれど、また傷つけてしまわないか心配だ。 「大丈夫だから。お前が持て」 「クゥ……」 少し強い口調で言われて、僕は気をつけながら卵を抱き抱えた。 サリエルは、なにやらカゴを取り出すと、そこに布を敷き詰めていく。 「ドリアのベッドか?」 「クゥ?」 「ドリア、ゆっくりその卵そこに置け。お前もそのまま傍にいていい」 「クゥ……」 言われるがまま卵を布の上に置いて、僕もその近くへと座り込む。 その布は普通の布と違っていた。 温かくて、ふわふわで、なんだか眠くなってしまう。 そのときまた、卵がピシッと音を立てて、ひび割れ始めた。 「クゥ!」 「わ、割れるぞ……! 大丈夫か?」 リオクが心配そうにサリエルに声をかける。 「大丈夫だ。ドリア、撫でてやれ」 「クゥ……?」 卵に近づいて、尻尾で撫でてあげると、その卵がガタガタと動いていることに気付く。 「クゥ……クゥ!」 中から振動が伝わって来る。 この卵は壊れたんじゃない。 いまから子供が誕生するんだ。 そう気付いた僕の心臓も、バクバクと音を立て始めた。 「な、なにが生まれるんだ?」 リオクは、誰よりもオロオロしている。 「ボティスの卵に似てたから、蛇みたいなやつかな」 ゼルクも、そわそわした様子で卵を覗き込んでいた。 ラウムは黙ったまま、それでもしっかりとこっちを見ている。 みんなが見守る中、卵のヒビがどんどん大きくなって。 とうとう、中からなにかが出て来た。 「ピィ……ピィー」 高い音で鳴く、変わった生き物。 「クゥ!」 「生まれた……! 足がある」 ラウムの言う通り、ちゃんと足も手も生えていて、ボティスとは違う魔物だ。 「クゥ……!」 「ボティスよりドリアに似てるよ! なあ、な!?」 「ゼルクお前、興奮しすぎだろ」 まだ小さいけれど、ドラゴンタイプの魔物に違いない。 天使は、ドラゴンタイプの魔物をあまりよく思わないはずだけど……。 そこにいるゼルクはすごく喜んでいたし、サリエルもとくに嫌な素振りは見せていなかった。 ゼルクとラウムとリオクが騒ぐ中、サリエルは僕の頭をそっと撫でる。 「お前が育てろ、ドリア」 「クゥ!?」 「お前が拾った野生の魔物だ。ま、育てる気がないんなら……森に帰すか」 野生の子。 森でも充分、育つのかもしれない。 「キィ……」 それでも僕は、この子と一緒にいたい。 「クゥ!」 「ドリアがお母さんってことだな! よし、ドリア! お前とそいつと一緒に暮らすぜ」 「よかったね、ドリア。リオクも」 「クゥ!」 けれど僕には子育ての経験なんてない。 野生でも育つくらいの子だから、きっと大丈夫だとは思うけど……。 「クゥ……」 「ドリア、心配……?」 ラウムが、僕の不安を感じ取ってくれる。 「大丈夫! なにかあればサリエルが教えてくれるよ!」 「俺をなんでも屋にすんなっつってんだろ」 「でも、卵から子供が生まれるってのもわかってたんだろ」 サリエルはいつから気付いていたんだろう。 もしかしたら、昼に中庭であったときから、気付いていたのかもしれない。 「クゥ……」 「まあ、ゼルクが言うように、なにかあれば教えてやるよ」 「クゥ!」 「一応、子育て経験はあるからな」 「え!? サリエルって結婚してたのか!?」 「ゼルク、お前は少し黙ってろ」 僕とリオクは、サリエルから大きなカゴとすごく温かい布を貰って自分たちの部屋に戻った。 「すげぇな、ドリア。今日からお母さんだな」 「クゥ!」 「いや、お父さんか」 「クゥ……?」 いまはスヤスヤと眠っている小さな魔物をジーっと見つめる。 これから、僕が育てて行く魔物。 「クゥ!」 卵を拾ってよかったと、心から思った。 |