■悪魔症候群-零-■イースター■バラキエル■
※「Hybrid症候群」「Angelsyndrome」と同じ世界のお話です。
※悪魔に憧れる天使、バラキエルのお話。




「あっはは。なにこれ」
 鮮やかなピンク色の卵。
 ありえない。
 ありえないでしょ、この色。
 ピンク色の卵を拾い上げ、日の光に照らす。
「それは、ボティスの卵だよ」
 そう背後から声をかけられ振り返った。
 金髪の大人しそうな生徒がそう俺に手を差し出す。
 まるで返してと言わんばかりに。
「んー? なぁに、ボティスって?」
「この子。僕の使い魔なんだ」
 するすると、そいつの足にピンク色の魔物が絡みつく。
 ああ、あれだ。
 人間界の蛇に似ている。
「そんな細い子から、こんなおっきいの出て来るんだ?」
「うん。小さいのもあるよ。ほら」
 ポケットから、小さな卵が取り出される。
 なにこいつ、卵持ち歩いてんの?
 おもしろすぎるんですけど。
 俺はそいつが差し出している手に、自分の手を重ねる。
「ねぇ、この卵。貰っていい?」
「ボティスの卵?」
 一瞬、迷われてしまう。
 あー、すっげぇ大事なんだな、この卵。
「大丈夫大丈夫ー。かわいがるからぁ」
「……無精卵だから生まれないよ」
「んー? いやいや、産まれて来る子じゃなくてぇ。かわいがるのはこの卵なんだけど?」
「卵自身をかわいがるの?」
「そう。1つくらいいいでしょ。というかぁ、俺が拾ったし」
「……焼いて食べたりしない?」
「あー、そんなんは考えてなかったけど、それもアリかぁ」
「な、無いよ……。かわいがってくれるならあげてもいいけど……」
「じゃ、もーらい。ありがとね!」
「う、うん」
 俺はぎゅっと握手をし、手を振りその場を去る。
 さっそく、部屋へと戻った。



 綺麗に卵を洗い、改めて眺める。
「ふふ……。いいねぇ」
 つい笑みが漏れ、俺は自慢したくなり、隣の部屋のアミーを訪ねた。
「アミー、いる? いるよねぇ」
「……なに」
 少し疲れた感じでドアを開けアミーが出迎えてくれる。
 アミーの髪を指先で絡め取ると、さりげなく顔を逸らされ逃げられた。
「あぁ、いいよねぇ。アミー。アミーは最高だよ」
「会うたびそういうこと言うの、もういい加減飽きたよ」
「だってぇ、こぉんな真っ黒なんだよ? 髪も……ねぇ、羽もだよね。出してよ」
 アミーはいつだって冷静だ。
 まるで心の一部をどこかに捨てて来てしまったみたいに。
 出せと言ってもなかなか出してはくれない。
 わかってる。
 わかってて、俺は持ってきた。
 アミーが大っ嫌いなもの。
 つい舌なめずりすると、アミーはなにかを悟ったのか、眉を寄せた。
「もう寝るところだから」
「じゃあ、特別に一緒に寝てあげよう」
「いいよ。一人で寝る」
「見ーせて。羽。好きなんだ。ぜぇったい色素濃いよねぇ、真っ黒だよね。だって髪もこんなに真っ黒なんだから」
 ああ、考えるだけでバクバクと心臓が高鳴る。
 黒。
 俺の大好きな悪魔の黒。
 肩を掴み、部屋に入り込むと、すぐさま俺はアミーを壁に押さえつける。
「はぁ……ホント俺、この髪見てるだけでムラムラしちゃうよ」
 頭を撫で、そっとその髪に口づけ、舌を伸ばし、その髪を絡め取る。
「バラキエル、いい加減に……」
「怒った? 怒ってくれていいよ」
 そのまま、羽を出してくれたらいい。
 それでも、そんな俺の考えなんて、アミーはきっとお見通しだ。
 深くため息を吐き、俺の肩を押し退ける。
 やっぱりね。
 そう来るよねぇ。
「ふふ……あはは。アミー、今日ね。俺、いいもの拾っちゃった」
 ポケットに隠し持っていた卵をそっと掴む。
「見て、これ」
「っ……!」
 目の前に差し出すと、アミーは俺の肩から手を離し逃げるよう壁に背中を打ち付ける。
「魔物の卵だよぉ」
 ペチペチと、その卵でアミーの頬を軽く叩く。
「アミー……大丈夫。怖くないよ。怖くないからぁ」
 アミーは目を逸らし、少し呼吸を荒くしていた。
「あぁ、エロいよ。その声。煽ってる?」
「いい……加減に……」
「羽、出して。出してくれなきゃもっと苛めちゃうよ」
「…………っ」
 一旦、卵をどかし距離を取ると、アミーはいやいやながらも羽を広げてくれた。
「ああ、本当に綺麗な羽だ」
「……そう言われるの、苦手だから」
「酷いよねぇ。俺にはないモン持っておきながら、そういうこと言うの」
 俺もまた、隠していたそれを背に広げる。
 黒く染め上げた天使の翼。
 アミーは、俺のそれをなぁんか嫌なもんでも見るみたいに睨みつける。
「……ねぇ、アミー。どうしたら俺は、悪魔に近付けるかな」
「俺に聞くな。もう用が済んだなら帰れよ」
 クルリと背を向けられ、アミーの羽が目の前に広がる。
「あ……アミー、綺麗……」
「帰れって」
「はいはーい」
 これ以上は本当に怒られかねない。
 俺は、アミーの羽を撫で、その感触を手に残したまま、部屋へと戻った。



「はは……悪魔の羽……」
 俺はベッドにあおむけに寝転がり、すぐさまズボンを脱ぎ捨てた。
 悪魔の羽を撫でた手で、すでに熱くなっていた股間のモノを取り出す。
「はっ……ふふ……」
 まるで悪魔の手に包まれているような錯覚を覚える。
「ずるいな……アミーは」
 悪魔でありながら、魔物が嫌いだなんて。
 卵見るだけであんなに震えちゃって。
 もう異常だよ。
 俺なんて、どんなに愛しても、なかなか好いては貰えないのに。
 まあ支配することはできるけど。
 魔物は天使である俺たちには、なかなか懐いてくれないから。
「はぁ……」
 俺は手にした卵に舌を這わせ、唾液を絡める。
「ふふ……愛してるよ」
 たっぷり濡らしたその卵を、開いた足の間へと押し当てる。
 ああ、ちょっとキツいかもしれない。
 でもこれを産み落とした魔物だって、あんなに小さい体にこれを入れていたはず。
 ……どれくらいの期間、あの子はこの卵を体内に保管していたんだろう。
「俺も……」
 ゆっくりと押し込んでいく。
 そこが開き、卵の一番太い部分を通り越すと、少し締めつけた途端にずるりと中に入り込んできた。
「うぁあっ! あ! んっ」
 あまりの衝撃に、体が大きく跳ね上がる。
「うわぁ……あっぶなぁ、イきかけちゃったぁ」
 体を横に向け、手にしていた自分の性器を何度も擦り上げる。
 少し腰を揺らし身動ぎすると、中の卵が内壁を押さえつけ、先走りの液がたくさん溢れて来た。
 指先で拭い、塗りつけ、それだけでは足りず、ぬめりを纏った2本の指で卵をより奥へと押し入れていく。
「んぅっ……あ、ぁ……」
 少し奥で落ち着かせたまま、一番感じる浅い所を指先で何度もぐちゃぐちゃ掻き回す。
「ん、んぅ! あ……すごぃ……っ」
 いままで関わったことのないタイプの魔物の卵が俺の中に入り込んでいる。
「はぁっ……あっ……ん!」
 興奮で、自分の翼が隠せない。
 憎らしい。
 俺の大嫌いな天使の翼。
 いくら黒色に染めた所で、どうにもならない悪魔のそれとは似て非なるもの。
「あぁ……最悪だ……最悪……」
 甘い天使の翼特有の匂いが充満する。
 目を背けても、その翼がそこに存在していることは明白だ。
 萎えかける気持ちをもう一度高めようと、中を締め付け卵を体で感じ、差し込んだ指の先で卵に触れる。
「あ……ん、ん、卵ぉ……魔物のっ」
 うねる魔物の体を思い出す。
「あはっ……ぁ、ん、犯……して……」
 魔物に犯されたら、魔物に好かれる体質に変われるんじゃないだろうか。
 悪魔と同じ体質に。
 ああ、そうだ。
 魔物に寄生されちゃえばいいんじゃないか?
「ふふっ……ぁあっ! あははっ、はぁっ、んぅん!!」



 魔物にどうにかされてしまう妄想でイってしまうと、ただ妙な虚無感だけが残った。
「あーあ……」
 もう頭がまともに働かない。
 寝返りを打つと、いまだ体内に残った卵が内壁を刺激する。
 俺は考えることを放棄した。
 放棄したつもりなのに、モヤモヤとしたものが残る。
 気持ち悪い。
「あぁ、アミーのせいだ……」
 悪魔のくせに、魔物が嫌いとか。
 あんなに魔物に好かれる体質でありながら、拒むとか。
 どれだけ自分が幸せものか、もっと理解して実感して、悪魔であることを堪能して貰わないと。
「……俺の方が魔物のこと愛してんのに」
 俺の方がアミーよりよっぽど悪魔らしいのに。
 それでも魔物は俺よりアミーに懐こうとする。
 それが自分の天使特有の体質のせいだと言うのは理解していた。
 だからしょうがない。
 そう、これはしょうがないこと。 <
 俺は、いまだ出したままでいた翼から羽を1本抜き取る。
 真っ黒に染めたはずなのに、根本の方は白くなっていた。
 染めても染めても、すぐ白くなってしまう。
 俺の中に流れる天使の血は、どう抗っても、そうすんなりとは消えてくれないようだ。
「最悪……」